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2005年11月18日 お茶の水女子大学講義(6回目) [大学講義(お茶の水女子大学)]

2005年11月18日 お茶の水女子大学講義(6回目)

11月18日(金) 晴れ

10時半、起床。

朝ご飯は、いつものようにトースト1枚、生ハム4枚、きゅうり&レタス。

12時、仕事場へ。
メールチェックだけして、身支度。
髪はアップにまとめる(お茶大では初めて)。

着物は、小豆色の縞お召。
帯は、黒地に菊花。
半襟は緑系。帯揚は更紗模様の茜染。帯締は山吹色。
今シーズン初めて黒のファーのマントをまとう

14時、家を出て、霞ヶ関駅経由でお茶大へ。
レジュメのコピーの都合でいつもより約1時間早い。
早速、レジュメを印刷。
A4版8枚、A3版2枚を各々90枚を約40分かけて印刷。
途中のドトール・コーヒーで買ってきたチキン卵ベーグルサンドとコーヒーで遅い昼食。

16時過ぎ、出勤簿に押印のためジェンダー研究センターに寄る。
伊藤るり先生の研究室の入口に「北平ビール」(原文は「口」偏に「卑」+酒)のポスターが貼ってある。
色調に焼けがなく状態が良いので複製品かと思ったが、よく見るとオリジナルのように思われる。
北京を「北平」と表記していることから中華民国時代のもの。
絵柄はチャイナドレスの美女がジョッキを持っている。
顔立ちが李香蘭に似ているように思う。
もし1940年以前のものだったらけっこう珍しいものではないかと思う。

16時40分、講義開始。
学園祭で1週、間が空いてしまったが、今日から歴史篇「トランスジェンダーの社会史(1)-前近代日本の異性装者たち-」。

1.女装の建国英雄ヤマトタケル -日本神話の女装観-
『古事記』『日本書紀』に語られるヤマトタケル(小碓命 おうすのみこと)の熊曾征討の物語を紹介し、その重要なモチーフになっているヤマトタケルの女装の意味を考える。

女装姿で熊襲タケル兄弟を倒したヤマトタケルは、知略と武勇に富み美しく凛々しい少年英雄としてイメージされていて、そこには、男性が女装することを卑しむマイナスの価値観はまったく見られないこと。
巫女であったとも伝えられる叔母の倭比売命の衣装を身につけることについては、彼女のもつ霊的な力を仮に授かるためとする説もあるが、それならば鏡とか勾玉とか、霊的な象徴を授かればよいのであって、衣装一式をたまわって完全女装する必然性はなく、日本神話を語った7世紀のヤマトの人たちは、男性が女装することそのものに意味を持たせているように思われること。
女装は単に敵を油断させる策略ではなく、女装することによって男でも女でもない一種の超越した存在となり、通常の男性がなし得ないような特異なパワーを身につけることができると考えられたと推測できることなどを指摘。

また、『日本書紀』には、川上梟帥(かわかみのたける)が宴席で少女の姿の小碓命の容姿を気に入り身体を「戯ふれ弄(まざ)く」ったことが記されているが、常識的に考えれば、身体をまざくった時点で、それが少女ではなく女装した少年であることに気がついたはず。
ところが、川上梟帥はそのまま少女を傍らに置き、夜が更けるまで宴会を続けたのは、川上梟帥にとっては、相手が少女でも、女装の少年でも、どちらでもよかったのではないか。そこに少女と女装の少年の互換性が読み取れることを述べる。

さらに、ヤマトタケルが熊襲タケル弟を殺すとき、剣を尻から刺し通したことも暗示的で、あるいは、それはヤマトタケルが熊襲建兄弟にされた性的行為(アナルセックス)の仕返しという意味をもつのかもしれないと推測。

女装姿のヤマトタケルが熊襲タケルに剣を振り下ろす場面を描いた三重県鈴鹿市の加佐登神社の絵馬(明治36年=1903)を紹介。
明治という男権的な時代になっても、建国の英雄とされる人物がこのような女装姿で民衆の間にイメージされていたということは、とても興味深いこと。
そこには女装した者を蔑視する視線はなく、日本神話の歴史的事実性はともかく、少なくともそれを語り読み伝えた人たちにとっては、女装は決して忌避すべき「変態」的な行為ではなかったことを解説した。

2.双性の巫人-弥生時代の女装のシャーマン-
九州の種子島(鹿児島県)の広田遺跡(弥生時代前期末)の墓地に女性シャーマン(女巫)と同様の豪華な貝製装身具を身につけて葬られていた男性人骨を、考古学者の国分直一氏が、身体的には男性でありながら、女性巫人と同様な身なりで、宗教的な行為に携わった女装のシャーマン(双性の巫人)のものと推測していることを紹介する。

その上で、近現代の民俗調査例として、1960年代の奄美大島の名瀬市にいた化粧してしゃべり方や歩き方が女のような男ユタは、若いころには、髪も長く伸ばし緋色の袴をつけていた女装のユタがいたこと。
同じころトカラ列島の悪石島にも、歩き方や座り方などのしぐさは女性的であり、外出の時には化粧をする「おとこおんな」と呼ばれる女装のユタ3人がいて、女性の巫女(ネーシ)よりも霊力が高いと考えられていたことなどを紹介。

これら事例から、南西諸島における女装の巫人の伝統が推測できること。
それは、南西諸島の特異事例ではなく、日本列島広く分布していた女装の巫人、トランスジェンダーやインターセックスのような男女の中間的要素をもつ人に、一般の男性や女性を超越する能力(霊力)を認める文化が、周縁的に残存した可能性があることを指摘した。

3.持者-中世社会における女装巫人の系譜-
『鶴岡放生会職人歌合』(弘長元年=1261頃成立)と『七十一番職人歌合』(1500年成立)に見える「持者(地しゃ)」と呼ばれる正体が明らかでない「職人」について検討する。

『鶴岡放生会職人歌合』の「持者」の絵は、網格子に赤白の椿の花を散らした華麗な小袖風の衣料をまとい、白い布で髪を包むという当時の女性に一般的な装束であるが、よく見ると口元に髭が描かれており、眉の形も女性のものではない。
絵に添えられた詠歌(恋)は、「なべてには 恋の心も かわるらん まことはうなひ かりはおとめご」で、「実はうなひ(髫髪=うなじのあたりで切り揃えた髪形)」であるが「仮は乙女子」と詠っていることから、女装した男性であることがわかること。
また、詠歌(月)に「神の宮つこ(御奴)」とあることから、鶴岡八幡宮に仕えていたこと、また「相人」(人相を占う人)と番えられていることからも宗教的な職業と推測されること。

『七十一番職人歌合』の「持者」の絵は、首から数珠を下げた巫女スタイルで民間の宗教者のイメージで、垂髪も眉も女性そのものであり、絵からは女装した男性である要素は見当たらないが、詠歌(恋)は「いかにして けうとく人の 思ふらん 我も女の まねかたぞかし」で、「女のまねかた(模型)」とあることから、やはり女装の男性であることがわかる。

「持者」は古辞書には見えないが、『改正増補和英語林集成』には「Jisha ジシャ まじないによって悪霊を退散させる巫女」とあって、宗教的な職業であろうという推測を裏付ける。

中世社会における「持者」の実像は、文献資料に乏しくいまひとつ明らかではないが、『鶴岡放生会職人歌合』『七十一番職人歌合』から、この時代に「持者」と呼ばれた女装の宗教者が存在したことは間違いなく、それは、遠く弥生時代から続く女装の巫人の系譜に連なるものと思われることを述べた。

4.女装の稚児-中世寺院社会における女装の少年-
中世の寺院社会において、ほとんど女装で師僧の身の回りの世話を務めるとともに、その寵愛の対象となる稚児がいたことを紹介する。

鎌倉時代後期に描かれた『春日権現験記絵』の白河上皇の春日社御幸の場面には、上皇の到着を迎えて居並ぶ裹頭袈裟、鈍色の僧衣姿の興福寺の衆徒たちに混じって、朱、紅、緑など色鮮やかな装束の稚児の姿が描かれている。

一般に、元服前の少年の衣料は水干であるが、ここに見える稚児の装束は、肩の丸みや裾の長さなどから女性の衣料である美麗な小袿(こうちぎ)であり、脚にはやはり女性の履物である「藺げげ」を履いている。
また髪も長く伸ばした垂髪を元結で束ねていると思われ、女性の髪形そのもので、中には地に届くほどの見事な垂髪の稚児もいる。
このような稚児の姿は、明かに女装であり、「童」の姿には、少年装と女装の2パターンがあったことがわかる。

また、稚児が「大人(男)」や僧侶の性愛の対象となった点について、一般的にはそれを男性同性愛(ホモセクシュアル)の類型と考えるが、少年装の稚児についてはそうであっても、女装の稚児についてはそれだけでは説明できない。
女性との接触が戒律的にタブーであり、女性が存在し得ない寺院社会において、女装の稚児は女の形をした女性の互換者として認識されていた。
つまり、女装の稚児は、身体的には少年(男性)であっても、女性との互換性が強く意識されジェンダー的には「女」して扱われていたと考えられる。
とするならば、それは男性同性愛(ホモセクシュアル)ではなく、異性愛の擬態(擬似ヘテロセクシュアル)として理解すべきであることを指摘した。

こんな感じで、弥生時代から中世までを一気に話してしまう。
ポイントは、性別越境者(トランスジェンダー)の宗教的職能(「神性」の伝統)ということになるだろう。
江戸時代の「陰間」の話は次回に持ち越し。

今日の授業後の質問。
「中世寺院の女装の稚児は、江戸時代の寺院には受け継がれなかったのですか?」
お返事。
「寺院の内に女装の稚児を置くという形では受け継がれません。次回、お話しますが、性愛関係のみを陰間茶屋に外注(アウトソーシング)する形になります。そうした点でも、中世寺院と江戸時代の寺院の間の変質(断絶)はかなり大きなものがあると思います」


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